あやか戦記2006
ある者は言う、ツンデレ嬢、と。
ある者は言う、あやか様、と。
ムービー日記で逃げ回る彼女の姿を批判する者がいれば、本番での彼女の立ち振る舞いを絶賛する者もいる。
苦手な野菜を食べれば涙を流し、運動会では徒競走で最下位、修学旅行に至っては転がりあまって岩にぶつかる有様。
質問の返答は、いつも「知らない」「わからない」「答えられない」。自分が気乗りしない話題に付き合うサービス精神は皆無。
それでも人は、彼女の雰囲気に魅せられる。
決して、事務所は彼女をプッシュしなかった。
しかし、社内オーディションでは常に結果を残し、与えられたチャンスで最大限の活躍を見せ、知らず知らずのうちに、内部に外部に、注目を浴びさせることに成功した。
そんな彼女の心の奥底には何が眠るのか。
みんな日記には全くといっていいほど投稿せず、会話で本音を漏らすことは稀。
人前に出れば、いつもの笑顔で愛想良く振りまくが、その舞台裏で集中力を高めようとしている姿を、ファンなら誰もが知っている。
そう、自分勝手と言われても、ワガママと言われても、我が道を行く、そのゆらぎなき信念。
格好悪い自分を見せないために、努力を怠ることを知らない、その誇り高き精神。
それが、我らが愛すべき、松本あやかではないか。
あやか戦記2006
「ケーキパニック2」以前
超世代ユニット「虹色タルト」のメンバーに選ばれるなど、チャームに入って順調なすべり出しを見せた松本あやか。
そんな初期の松本あやかと仲が良かった子といえば、川口ひとみ。
2005年のクリスマス祭りでも、帰りのバスで同席した二人。
↑松本あやか曰く「おとぼけグループです!」
同時期にチャームに入ったせいで、コンビを組んでいたと思われるが、この関係がいつまでも続くはずがないことは、「あやか様」と化した現状を知っている人ならば誰もが考えるだろう。
これは別に、松本あやかにかぎったことではない。
例えば、上杉まゆみ。チャームに入った当時は、渡辺ゆいとコンビを組んでいたのだが、いつも「眠そうな」パートナーでは満足できなかったのか、古井みずきと共に行動するようになる。
このコンビにより、上杉まゆみはブレイク。さらに、うきうき〜ず誕生のきっかけにもなったのだから、同期のよしみで組んだコンビを裏切ることの是非を問うのは場違いなものだ。
しかし、川口ひとみとコンビを組んでいたころの松本あやかの映像は、わずか一年前のものとは思えない初々しさがある。
この頃、誰が「あやか様」と呼ばれるようになると想像したであろうか。
ケーキパニック2
「ケーキパニック2」、このドラマ作成が、松本あやかにもたらしたものは多い。
1月28日に行われた社内オーディションでは、台本を覚えてオーディションに望み、見事、出演を勝ち取る。
ちなみに、このときオーディションを受けた中には、加山しょうこ・指出らんなど、当時は松本あやかより期待されたキッズも数多く参加していた。
もし、台本を覚えていなければ、もし、指出らんが面接に成功していたら、出演者は変わっていたのかもしれない。
(事務所側の両者の期待度については、指出日記の第1話冒頭を見ればわかるのではないかと)
ちなみに、同期のよしみの川口ひとみも合格。このまま、パートナー継続かと思いきや、演技力の差のせいか、川口ひとみは同級生の大森なるみと同じ役柄を任されるようになる。
一方、松本あやかと、同じポジションの役柄を任せられたのが、うきうき〜ず隊長こと大場はるか。
この二人、それまで接点はほとんど無かったはずだが、
うきうき〜ず隊長として、周囲の期待にこたえるべく、自分を表現しようとしている大場はるかの姿を見て、川口ひとみとの仲良し路線を歩んでいた松本あやかのハートに火がともる。
特に、注目してほしいのが、「撮影前日」と「撮影当日」の、松本あやかのポジションの変化。
「撮影前日」のリハーサルでは、年少組と行動を共にしていた松本あやか。
しかし、「撮影当日」では、大場はるかのそばにできるだけ近づこうとしている。
この劇的な変化、「メイキング編」を注意深く見ないとわからないと思うが、このことに注目して鑑賞してみれば、松本あやかが大場はるかを好意的に見るようになり、パートナーとなろうとする様子がうかがえるはずだ。
この両者、一見すると、共通項は無いように思える。
たとえば、松本あやかの立ち振る舞いはお嬢様然とした見事なものだが、大場はるかはついつい猫背になってしまう性癖の持ち主。
そのせいか、松本あやかが「ケーキパニック2」を成功させようと努める横で、大場はるかはカメラを前に謎の行動を繰り広げるわけだが、
松本あやかは、そんな大場はるかのことをぜんぜん責めようとはしない。
例えば、普天間みさき。
彼女も裏仕事を進んで引き受ける性格だが、「チャームキッズを引っ張っているのは自分」という自覚のためか、「みんな、もっとしっかりやろうよ」という雰囲気がただよう。
ところが、松本あやかの場合はどうだろう?
大場はるかの分まで健気にがんばろうとする姿が、このムービーでは映し出されているではないか。
「ぐうたら亭主とかいがいしく働く妻」と形容するのはいいすぎだが、この撮影での松本あやかは、カメラの前で自由気ままに振舞う大場はるかを横目に、自分の出せる演技力を精一杯引き出そうとしている。
それでいて、撮影当日はできるだけ大場はるかの隣にいようと努めているのだ。
そんな想いに、大場はるかはどこまで気づいていただろうか? この後の経緯からして、ぜんぜん気づいていなかったと思う。
むしろ、演技力の高さを見せた松本あやかを見て「ウチもまだまだだな〜」と感心した程度ではなかろうか。
この「ケーキパニック2」の「メイキング編」は、そんな松本あやかの献身的(決してこの表現は言いすぎではない)な様子を見ることができる、唯一の映像ではないか、と思っている。
また、この「ケーキパニック2」の公開とともに、「あやか様」という愛称がファンの間でささやかれるようになるが、それは「お嬢様らしい振る舞い」に起因するものであり、後の「自分勝手」「ワガママ」というイメージの「あやか様」からはかけ離れていることをお断りしておく。
そう、「ケーキパニック2」での松本あやかには、のちの「あやか様」のイメージがまったく見られないのだ。
(これが、大場はるかに対する想いからなのかどうかの推測は、人それぞれだろうが)
4・1 クリスマスDVD発売イベント
「秋葉原探検隊」第18回・19回で公開された、2006年4月1日「クリスマスDVD発売イベント」
「ケーキパニック2」の撮影が3月29日だから、それから数日後のイベントとなる。
それでは、今度も松本あやかは大場はるかの隣にいようと努めたのかといえば、残念ながら、このムービーでそれを確認することは難しい。
ただ、一つわかるのは、川口ひとみとのコンビが解消されてしまったことだ。
ケーキパニック2の撮影前日である3月28日の朝までは、まだ、このコンビは継続しているはずだった。
しかし、ケーキパニック2の撮影は、松本あやかに変化をもたらしたのだ。
ここでの松本あやかは積極的に誰かと交わることもなく、ただ泰然としている。彼女は「仲良し」路線を放棄したのだ。
といっても、このイベントでは「虹色タルト」「年少五人組」と二つのユニットを掛け持ち。
このイベントで掛け持ち出演したのは、松本あやかのみである。
ちなみに、このイベントに参加した同級生(小学六年生)のうち、山田みらのをのぞく二人(指出らん・山中知恵)は、ともに「新人」として紹介されていた。
山田みらのも、虹色タルトのメンバーから外れ、このとき、松本あやかには小学六年生組のリーダーとしての活躍が期待されていた時期なのかもしれない。
5・21 上杉まゆみDVD発売イベント
先日のヤングチャンピオンのインタビューにて、「勉強ダメ、友情オッケー」という名言を残した大場はるか。
チャームに入ってからしばらく、自分の芸の無さに対する劣等感からか、同級生とはうまくなじめなかった大場はるかだが、ついに一学年下のある子と「親友」と呼べる関係に発展する。
しかし、大場はるかが親友に選んだのは、残念ながら、松本あやかではなかった。
そう、山中知恵である。
2006年5月21日「上杉まゆみDVDイベント」のムービーは、はるか&知恵コンビを世界に知らしめた、といえるだろう。
そして、このコンビの最大の被害者となったのが、松本あやか。
登場シーンで、はるか&知恵コンビに何とか分け入ろうとする松本あやかだったが、二人の友情の邪魔をすることはできなかったようだ。
本番前でも親しげに会話をするはるか&知恵コンビの隣で、クールに構えざるをえなかった彼女。
4月1日のムービーを見ればわかることだが、それまで山中知恵と大場はるかとの接点は、ほぼ皆無といって良かった。
親友でもなければ、友達でもない、ただ事務所が同じ子にすぎなかったわけだ。
急速に親友関係に至った二人を見て、松本あやかは後悔したであろう。4月1日のイベントで、もう少し、大場はるかに接近しておけば良かったのではないか、と。もしかしたら、この二人の関係を自分は変えることができたのではないか、と。
ちなみに、このイベントのあとの「ケーキパニック2上映会」では、出演者という理由で、大場はるかの隣に座ることはできた。
自分が出演したシーンが近づいて興奮する二人。
やはり、大場はるかが隣にいるときは、あやか「様」らしいところを彼女は見せない。
ただ、大場はるかが自分の活躍するシーンを、この場で見られることを嫌がっていることに気づかず、周囲と一緒に「もう一回、もう一回」とアンコールをするところは、「嗚呼、やはり、あやか様」というべきか。
一方の山中知恵は、大場はるかがジュースをこぼした際に、誰よりも早くティッシュをもってきてそれをふく、という気配りを見せている。
この二つのシーンを見るだけでも、大場はるかが山中知恵をパートナーに選んだのは、見る目があった、と思うし、松本あやかが選ばれなかったのも、仕方なし、とも思う。
しかし、理由はともあれ、松本あやかはパートナーとなるべき人を消失した。
かつての川口ひとみは、同級生との交流を築き、もはや松本あやかとは別世界の住人になろうとしていた。
こうして、松本あやかは孤独になった。だが、それは悲しむべきことではない。パートナーがいない分、もっと自分を打ち出すことができるのだから。
(つづく)