知ってもらいたい大阪の知識
まもなく本編開始となる「うきうき〜ずのたこやきパニック」ですが、
大阪のことをいかに正確に伝えているか?
と、僕はアイマックスの編集をいささか危惧しているわけで。
僕は大阪人ではないのですが、大阪府近隣の人間として、大阪を愛する者として「たこパニ鑑賞前に知っておきたい大阪の知識」という企画をお届けしようと思います。
新大阪駅
新幹線の場合だと、大阪の玄関口は「新大阪駅」となります。新幹線の窓からは、ビルが立ち並ぶのが見えるでしょう。でも「そんなに高くないな」と思うのではないでしょうか。「大阪ってこんなもんか」とあなたはガッカリするかもしれません。
しかし、これには理由があります。試しにすぐにホームから離れずに、ぼーっと空を見ていてください。すると見えるのは飛行機。かなりの低空飛行です。
そう、伊丹空港が近くにあるため、この周辺には高いビルを建てられないんですよ。今では埋め立ての関西空港に一歩ゆずっていますが、大阪(伊丹)空港からの発着便は少なくありません。
(例えば、3月13日の高知空港での胴体着陸。あの便が出発したのは伊丹空港からです)
さて、ここから「たこパニ」の舞台となる大阪ミナミに向かうには、地下鉄に乗らなければなりません。大阪ミナミはわかりやすくいえば、東京山手(やまのて)線の中央あたりにあります。そして、東京における山手線(大阪では環状線)をつらぬく中央線のような存在が大阪にはない。実は大阪ミナミにはJRの駅がひとつもありません(くわしくは後述)
私鉄や地下鉄の勢力が強いのが大阪の特徴です。
といっても、新幹線から地下鉄まではちょっと距離があります。こういうのは大阪の悪いところ。合理性や洗練化がされていないのです。まあ、日本一広いといわれる梅田駅に比べれば、かわいいものです。地下鉄御堂筋線にのり、いざ、大阪ミナミへと向かいましょう。
(ちなみに、地下鉄新大阪駅は地上にあります。幼い僕はこの事実に驚愕したものですが、関東人にはさして珍しいものではないと思いますので)
地下鉄御堂筋線・梅田駅
大阪の地下鉄は初乗り200円。高いですが、JRで大阪ミナミに行くのは面倒です。あきらめましょう。
さて、御堂筋線は大阪の心臓部というべき路線で、数多くの有名駅を通ります。
梅田、心斎橋、なんば、天王寺……
といっても、これらの駅を関東人がご存じかどうか。もしかすると、梅田駅すら知らない人がいるかもしれません。
梅田駅といえば、前述したように、日本一広いといわれていますが、乗客数でもJRを含めれば日本3位の大ステーションです。
(ちなみに、1位・新宿駅 2位・池袋駅 4位・渋谷駅 5位・横浜駅)
ちなみに、JRでの駅名は「大阪駅」といいます。
そう、梅田=大阪駅です。なぜ、わける必要があるのか、と思われるかもしれません。しかし、例えば、東京駅はなぜ東京駅なのでしょうか?
(理由を知りたい人は、Wikipediaにどうぞ)
地名では東京駅は「丸の内」にありますので、大阪的価値観でいえば、JRはともかく地下鉄は「丸の内」と名づけてほしいものです。そんな違いあると「なぜ?」という好奇心が生まれます。合理化だけでは次の世代を育てることはできません。
さて、大阪ミナミという表現を用いましたが、ミナミに対するキタが、梅田駅(JR大阪駅)周辺となります。ただし、広範囲にまたがるミナミに比べて、キタは梅田に繁華街が集中しているので、キタという表現を大阪人は使いません。梅田は梅田、ミナミはミナミ、です。
ちなみに、梅田は大阪の玄関口として発展した歴史があるので、全国各地の人たちが集まる場所、つまりよそ行きの街となっています。あまり、大阪らしくないのです。大阪人が飲みに行くのは、ミナミか京橋となるわけで、「大阪を知る」ということにかけては、梅田はふさわしい街とはいえないでしょう。
ただし、梅田駅の広さ、しっちゃかめっちゃかぶりは、大阪らしさに満ちています。地下街が枝葉のように分かれていて、どうすれば最短距離でたどり着けるのかが実にわかりにくい。もっと計画的に作ればいいのに、それぞれの商人の思惑が入り混じり、強引にいろんなものをつなぎあわせたのが、梅田駅です。
例えば、同一駅として、東梅田駅、西梅田駅というものがあるのですが、30分以内に乗りかえないと、乗継運賃にならない、という実に大阪らしいルールが決められています。
このように、迷子になるにはうってつけの梅田駅なのですが、そのおかげで人の流れが統一されていません。同じ目的地にしろ、いろんな経路がありますので、拡散した動き方をしています。これは確かに非効率なのですが、美点もあります。それは、自分のペースで歩けること。東京に着いて思ったのですが、東京の駅の人々の動きは最短距離を目指して、一丸となって進みます。その勢いにのまれて歩いてしまいます。ところが、拡散された梅田駅だとそうではない。大阪は東京と並び、歩く速度が早い街だと言われていますが、みんなが早いわけではないのです。僕みたいにうろちょろしながら歩く人もいる。横の通路をのぞき見れば、おじいちゃんおばあちゃんが杖をつきながらゆっくりと、それでも自分の足で歩いていたりします。こういうのが、大阪らしくて好きです。まあ、枝分かれした地下街の方が、いっぱい店を出すことができる、というのが、たぶん、広すぎる地下街となってしまった一番の理由だと思いますが。
話を地下鉄に戻しましょう。大阪の地下鉄の特徴は、広告が目につくことです。つり革にもあるし、車内アナウンスにも含まれています。駅のホームも広告まみれです。ナニワの商魂をこういうところで味わい、心の底からウンザリしましょう。
大阪ミナミ
大阪ミナミとは、難波(なんば)・道頓堀(どうとんぼり)・心斎橋(しんさいばし)筋をさすのが一般的です。道頓堀は聞いたことがあるでしょう。グリコの看板・食いだおれ人形・阪神ファンの飛びこみなど、大阪を代表するスポットです。
さて、「なんば」と書きましたが、基本的には私鉄の南海難波駅周辺を指します。ちなみに、「JR難波駅」というものも、存在します。あれ、JRはミナミには一つも駅を持たない、と言ったはずでは、と首をかしげる人もいるでしょう。
「JR難波駅」という名前は、1994年からの改称なのです。それまでは「湊町駅」と名のっていました。難波ではなく、湊町にあるので、大阪人はこのJR難波駅をミナミには含めません。
実際、JR難波駅はさびれています。駅の広場では、若者たちがのびのびとダンスの練習にはげんでいます。駅のホームも広さばかりが目立ち、とても大阪の中心にある駅とは思えません。
でも、距離が離れているとはいえ、JRで乗り継いだ方が運賃は安くつくじゃないか。地下鉄は初乗り200円だろ? ちょっとぐらい歩いたとしても、JR使ったほうが賢くないか? そう思われるのはもっともです。しかし、新大阪駅からJR難波駅に着くには、二回乗換しなければなりません。環状線をぐるりと回って、それから新今宮駅でいったん降り、大和本線に乗り換えて、内部に入っていくわけです。円の中心に行くのに、わざわざ半周して、反対側から中に入る、と想像してもらえばいいでしょう。かなり面倒です。着いたところも、ミナミの中心から大きく離れています。
こういう交通の便の悪さが、実はミナミを大阪らしくした理由なのです。私鉄と地下鉄でガッチリ固め、余所者(特に東京人)を安易に近づけないようにしたおかげで、ミナミは大阪人中心の街となりました。それゆえ、ミナミでは大阪人は大阪人らしくふるまうことができるのです。
ちなみに、僕が学生の頃は客引きの多さにウンザリしたのですが、行政指導でここ数年は激減したみたいです。今では東京の繁華街より安全ではないでしょうか。それで、大阪らしくなくなった、と嘆く人もいます。しかし、日本有数の長さを持つ心斎橋筋は、多くの店がならび、この通りをぶらぶら歩くことが、もっとも大阪の雰囲気を味わうことができるんじゃないかと思います。
日本橋(にっぽんばし)
東京の秋葉原と並び称される日本橋(にっぽんばし)電気街は、ミナミのすぐそばにあります。
例えば、地下鉄千日前線だと、「難波駅」の次が「日本橋駅」です。ちなみに電車に乗らなくても、地下街を歩けば知らずのうちにたどり着きます。
ちょっと前ですが、梅本静香が大阪でイベントを行った場所が「トップジャパン日本橋店」でした。この知らせを見て「よし、行ってみよう。場所は何とかなるさ」と気軽に考えて、地下鉄日本橋駅に降りたとしましょう。この人は、おそらく、日本橋電気街にはたどり着けないでしょう。
実は、日本橋電気街に行くためには、日本橋駅では降りてはいけません!
日本橋電気街の最寄駅は地下鉄恵美須町駅です。日本橋駅から日本橋電気街に行くぐらいなら、難波駅南口から行った方がわかりやすいぐらいです。
と、余所者にはわかりにくい日本橋電気街なんですが、秋葉原みたいに集中しているのではなく、だらりと間延びした印象です。チラシを配るメイドさんもいませんが、自分のペースでじっくりと買い物を楽しむことができるでしょう。個人的には、日本橋には文化と呼べるほどの土壌は育っていないと思います。PC店やいわゆるオタク向けショップが充実している、特殊なショッピング街ととらえていいんじゃないでしょうか。
ジュニアアイドル関係の品揃えに関していえば、秋葉原には大きく劣ります。例えば、エンプロは大阪よりも東京の方でイベントを行うことが多いみたいです。大阪には、ジュニアアイドル支持層という文化は育っていません。
(イベントができるのは、トップジャパン・信長書店ぐらい?)
タレントが小中学生という都合上、全国各地に事務所ができるのは当然ですが、地元よりも東京に向けた活動が中心であることは、この業界の現状をよく示していると思います。おいも屋大阪支店ができるのは、まだまだ先のことでしょうね。
通天閣・新世界
大阪のシンボルとして引き合いに出されることが多い通天閣ですが、これも恵美須町駅の近くにあります。わかりやすく位置関係を示すと、次のようになるでしょうか。
ちなみに、大阪人にとって、通天閣は大阪城と同じくよそ行きの観光名所と思っているふしがあります。東京タワーと同じようなものです。
通天閣周辺は歓楽街「新世界」があります。しかし、「新世界」は名前に反して「レトロ」な雰囲気が持ち味の観光地となっています。心斎橋筋や梅田に比べると、若者の姿は少なく、「生きた」歓楽街には見えません。
もともと、演芸場や遊郭で発展したという歴史のためか、風紀が悪く、一般人には立ち寄りがたい歓楽街になってしまいました。ミナミや梅田が新しいものを受け入れていくのに比べると、新世界は「おっさんたちをなぐさめる場所」になってしまったのです。全体の売上が落ちると、ますます閉鎖的になるのが商店街の定め。こうして、新世界は時代に取り残され、大阪人の多くは「新世界は危険な場所」としか考えていませんでした。
ところが、小説やドラマで「新世界」が取り上げられるようになると、逆に「取り残された」ことが注目を浴びるようになったのです。こうして、今の新世界は「レトロ」な雰囲気が味わえる観光地と認知されています。
治安も回復し、今では家族連れの姿も見られます。通天閣目当てでデートするカップルも少なくありません。
新世界といえば、散髪代が1000円を切ったり、串かつが100円だったりと、安価なことでも有名です。ただし、新しい店は少なく、良いものを安く買う、というショッピングの魅力を満たすことはできないでしょう。
天王寺公園
通天閣一帯の新世界を出ると、天王寺動物園があります。かつては、この両者は根絶していて、動物園の家族連れと、新世界のおっちゃんたちが交わることはなかったのですが、上記のとおり、今ではやや人の流れがつながるようになりました。
天王寺公園には、動物園のほかに美術館もあります。かつては、この公園で「青空カラオケ」というものがありました。露店のようなカラオケ屋で、演歌が鳴り響き、カップルたちが歩く雰囲気にはなれなかったのですが、どうやら条例により撤去されたみたいです。そういう意味では、デート向きのスポットになったといえるでしょう。
ちなみに僕は女の子連れで天王寺公園に行ったことがないので、動物園も美術館も行ったことはありません。
新今宮駅
新今宮駅は日雇い労働者が多いことで知られるあいりん地区の玄関口となっています。大阪人の多くは「西成区」や「あいりん地区(釜ヶ崎)」について、危険なイメージを持っています。
実際のところ、新今宮駅を降りると、目立つのが露天商とホームレス。露天商が売っているのは、VHSのアダルトビデオだったり、わけのわからない玩具だったり。それらが等間隔で並んでいることから、縄張りがあること、そしてそれを仕切る暴力団の影を感じないわけにはいきません。まあ、売ってる人に悪気はないので、興味があれば世間話してみるのもいいでしょう。
僕も新今宮駅周辺、つまり、あいりん地区と呼ばれるところの表面しか歩いていないのですが、それでも偏見を抱いてしまいます。たとえば、亀田兄弟は西成区出身ですが、そう聞くと、僕は「ああ、なるほど」と納得してしまわけです。ちなみに、この西成区を舞台にしたマンガが「じゃりン子チエ」です。
この一帯は宿泊施設がびっくりするぐらい安いことで有名です。だいたい、2000円以下です。一ヶ月泊まっても五万かかりません。下手なアパート借りるよりも安いぜ、と家出気分で連泊しようかと思ったのですが……
こういう安いところを利用する人って、それなりの事情をかかえた人が多いわけですよ。
受付の奥には「指名手配」だけでなく、「たずね人」のリストがぎっしり。確かに犯罪者からすれば、この安さは身を隠すのにはうってつけと考えても当然です。そういう歴史があるためか、受付のおっちゃんの眼光がするどく、僕は一日泊まるだけで退散しました。安いっていうのもいいことじゃないですね。