あやか三銃士


「あなたは地方から来たのですか?」
「……はい?」
「では、誰推しなんですか?」
「えー、最近は、さきほさんとかセイラさんとかに興味がわいているんですけど」
松本あやかは?」
「ああ、あやか様ならもちろん」
「ほう、あやかを様付けするあなたは、もしかすると、妄想班書いている人ですか?」
「ええ、そうですけど……あなたは一体?」
「私は、あやか三銃士の一人です。以後お見知りおきを」
「あやか三銃士?」


*この記事は事実を基にしたフィクションです。




 4月1日。一ノ瀬あっきーに会いに行くべく、おいも屋イベントに参加した私。三度目だが、まだまだ雰囲気にうまくなじめない。

 そんな私にとって、常連客とは未知の存在であった。

 おいも屋視聴覚室。週末にそこは常連客の社交場と化す。少女趣味という咎を背負いし魂が、唯一安らぐことが許される場所。そこでは、少女を愛でることは罪とはならない。誇らしげに、少女を愛することを歓談できる場所。サブカルチャー発信地の秋葉原においても、きわめて特殊な匂いを放つその空間。それが、週末のおいも屋視聴覚室なのである。

 これまでイベントに参加しても遠くから眺めるだけであった、そんな社交場に私は招かれたのだ。そう「あやか三銃士」を名乗る者に導かれて……


「君のブログは読んでいるよ」
「はい、ありがとうございます」
「特に、松本あやかへの想いがひしひしと伝わってくるのが、実に良い」
「そこまで、読んで下さるとは、感激です」
「そのため、我々あやか三銃士は、君に興味を持ったのだ」
「しかし、4人いますよね? 四天王では?」
「ははは、私はもうあやか推しではなくなったのだよ」
「なぜ?」
「わからないか? あやか推しであることの厳しさを。あの気まぐれさにふりまわされる不毛さを」
「……なんとなく」
「さて、ここからは三銃士である我々が語ろう。君の松本あやかに対する想いは十分に知っているつもりだが、しかし、我々と君との間には決定的な違いある」
「違い?」
「そう、君にはなくて、我々にはあるものだよ」
「もしかして、下心とか」
「愚か者! 18禁商品を置かぬおいも屋の常連であり、水着撮影のないチャーム撮影会の常連である我々に、下心があると申すか!」
「……すいません」
「そうではなくて、撮影会のことだ。我々は撮影会経験者。松本あやかの出る撮影会には、必ずや出席し、あやかに密着する者たちである」
「今月の撮影会も行かれるのですか?」
「もちろんだ。しかし、あやかを相手にするのはつらい。君はあやかDVDPart3の奔放さを愛すると公言しているが、撮影会はそれ以上にきつい」
「そうですね。Sマネ相手ですらあれですもんね。ファン相手だと、もっと強気に出そうですね」
「ちょっとでも相手をしないと、すぐすねる。かといって、自分から話題をふってくることはない。彼女の自然な笑顔をカメラに撮ることは、きわめて困難であると言わざるをえない」
「三銃士の力を持ってしても、ですか?」
「ああ。他者から見れば、我々はあやかをおだてまつりあげているようにしか見えないだろう。実際のところ、我々『あやか三銃士』はチャームファンにあまり良く思われていないのかもしれない」
「でも、ほかの子を撮影しようとすると、ふてくされるんでしょう? あやか様は」
「そう、だから、わりきるしかない。我々にとって、チャーム撮影会とは、すなわち、あやか撮影会であると」
「そ、そんな厳しい戦いなのですね、あやか様相手の撮影会とは」
「しかし、しかしだ。自分の好きな子を撮ることが、ファンの道であるのならば、まわりを気にせず、あやかを追いかける我々は、決して間違ってないのではなかろうか」
「ええ、その通りです! 正直、ちょっと尊敬しました」
「うむ、実際、あやかが調子に乗ったときの無敵さは、チャーム随一。その『デレ』状態を体験したのなら、もう彼女の魅力からは逃れられない。『デレ』に至る道は険しいが、それを勝ち取るためならば、我々は他の子をカメラにおさめるという欲望を犠牲にすることなどいとわない!」
「すごいです。僕も軽々しく、あやかファンとは言えなくなりました」
「さて、君は4月の撮影会に参加予定だと聞く。そうすると、我々と行動を共にせざるをえない。そのため、こうして会談の場を設けたわけだが…」
「いや、しかし、さきほさんも出るし、あやか様ばかりを追いかけるつもりは、今のところないわけで」
「その程度か! 君のあやかに対する想いはその程度か!」
「だって、まだ僕は撮影会に参加したことないんですよ。初撮影会が、あやか様密着って、レベル高すぎですよ」
「ははは、未知への恐怖のために己を曲げるのか。しかし、我々はとんだ思い違いをしていたようだな。我々は君こそ、あやかTシャツの継承者となるべき存在だと思っていたのだが」
「あやかTシャツ?」
「そう、あやか直筆のサインのあるTシャツのことだ。私はあやか推しであることをやめたとき、それを彼にゆずった。今では、彼があやか推しの第一人者。それを世界に知らしめるものこそが、あやかTシャツなのだよ」
「そんなものを、この僕に…」
「まあ、今度の撮影会で、君はあやか以外の子を追いかけるらしからな。この話は聞かなかったことにしてくれ」
「待って下さい!」
「なんだ、まだ言い足りないことがあるのか」
「やはり、僕もあやか『様』の認知度を高めるブログを書いた手前、逃れる気はありませんとも。そう、僕は決意した! 4月の撮影会では、あやか様に密着すると!」
「おお、それでこそ、勇者。我々が見こんだ者。しかし、四部すべてに参加して、あやかを相手にするのは、正直神経がもたないので、己の許すかぎり、でいいと思うぞ」
「わかりました。親切なるアドバイス、ありがとうございます!」



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 なんて会話が交わされた、今日のおいも屋視聴覚室。
(もちろん、口調は脚色)

 親切に話してくれた皆さん、ありがとうございます。

 しかし、これまで少女趣味を隠し通してきた僕にとって、それを気がねなく話す機会は初めてなので、かなり舞い上がっていた危険性があります。

 あと、昨日あんまり寝ていないこともあって、最後のほうが何を話していたのかよく覚えていないのですが…。


 とりあえず、初めておいも屋に来た人からすれば「何あいつ、超ウザい」と思われたこと間違いなしの僕でした。でも、ネットに書けないいろんな裏情報を聞けたので、個人的には大満足。

 いつか、飲み会に参加したいですね。そして、胸ぐらつかんで「お前に、あやかの良さがわかるか!」「貴様こそ、知恵の本当の魅力を知らずに、ファンぶるんじゃねえぞ!」なんて熱い口論を交わしてみたい。そう、まるで青春のひとときのように。どう考えても、間違った青春ですが。